「ふる」 感想
母からすすめられて読みました。
最近感想を書くのをさぼっていたが、これは、とおもう本だったので記事に残すことにする。
西加奈子さんの本は他に「窓の魚」と「しずく」を読んだことがある。両方ともおもしろかったけど、おもしろかったで終わりという感じだった。
この本が自分の心に残った理由はたくさんあるけど、自分が普段考えていることがそのまま書いてある、というのがまずある。なにげないいつもの会話を愛おしく感じる気持ちとか、誰かをいらだたせてしまったときの居心地の悪さとか、日常でふと私は女なんだと実感させられることとか。
主人公の生き方はある意味理想的だと読み始めたときに感じた。誰のこともけなさない、お互いを傷つけない距離感を保つ。そのかわり多くの人は彼女のそばを通り過ぎていく。小学校に入る前からの回想のなかで、その時々の友人や恋人の名前がフルネームで語られても現在の物語にはほとんど登場しない。そしてどの回想にも、現在の物語にも登場する新田人生。普通の女の人の日常が書かれているはずだけど、少し不思議で、謎が残されたまま物語が進んでいく。そして最後にはっと気付かされる。
私がこの本を好きなのは、決して説教臭くないところだ。主人公は最後に過去を振り返り生き方を変えようとするが、その生き方を読者に強要はしない。はじめから終わりまで彼女の物語なのが良い。
少し時間を置いて、何回でも読み直したいなとおもった。
本を読んだ時の感動とか驚きとか共感とかをなかなかそのまま文章にはできないのはもどかしいなあ。
憧憬☆カトマンズ感想
友人にすすめられ、読んでみました。
とにかくハッピーで、読んだ後に「おもしろかった!」とすっきりできる。あまりにも物語がさくさくすすむので、これはさすがになあ~と思うところもあったけど、あとがきを読んで納得。心にずしっときて読み終わった後しばらく暗い気持ちになる本もいいけど、あっさり読めて読んだ後に幸せになれる本が読みたいときもあるもんな。
両国☆ポリネシアンで、パティがセンター長に引き留められるシーンの後藤ちゃんのセリフが爽快で好きだった。後藤ちゃんも中尾ちゃんも、暗黙の了解になってるけど本当はみんながおかしいと思っている、けど言い出せないこと、をずばずばとそれ切り捨てていってくれるところがきもちいい。だからといってやたらと上司に反抗するようなことをするのではなくて、社会人として守らないといけない枠の中で最大限に行動しているところが好きだし、それがこの物語のミソだとおもう。私の身には起こりそうもないけど、もしかしたらあるかもしれないと思わせてくれる。
アヒルと鴨のコインロッカー感想
伊坂幸太郎さんの作品はデビュー作から順番に読んでいるのでこれで5作目
今まで以上につかみどころがなく、2/3程度まできてもまだ現在と二年前の決定的な繋がりがわからなかった。椎名が「君は、彼らの物語に飛び入り参加している」と言われるところでまだ三人の物語終わっていないのか?と気付くけど、それでもまだ釈然としない。それが、あるたった1行でそれまでの全てが融合してひとつになる。ここが本当にすごい。ああでもないこうでもないと疑って読みすすめてもまんまとだまされた!伊坂さんの作品を読んでいておもしろいのはこの瞬間だなあ。
全体的なストーリーは絶望的でなく、かといって気楽なハッピーエンドというわけでもない。それでも確かにこれからの生活への希望が残される終わり方。姉弟がレッサーパンダを盗み出すところや椎名がクロシバらしき犬とすれ違うシーンは救いが感じられて特に好きだった。
伊坂さんの作品は絶対に現実では起こりえないはずなのに、読んでいると現実ってこんなもんだよなあと何回も実感するところが不思議。世の中どうにもできないことだらけでやりきれなくなるけど、ドルジがはじめから終わりまで素敵で筋の通った青年として描かれることで、でもたまにはいいこともあるのかもしれないと思える。
ダックスフントを返品しにきた客が店員になった経緯とか、椎名が書店で会った16歳の少女の今後が気になった。ほかの作品で語られたりしているのかな?
映画版がとても好評らしいので今度みようとおもう。
「ボブ・ディランはまだ鳴っているんだろうか?」
映画感想
飛行機のなかでみた映画の感想。
(500)日のサマー
とにかくサマーがかわいい。顔とか体型とか服装とか、身近にいそうでいないぎりぎりのライン。あんな女の子に「お友達になりましょ」とか言われたらほいほい引っかかるよなー。トムに「新しい恋人がいるのに結婚式でどうして踊ったの?」とたずねられて「だって踊りたかったから」と返すのがサマーなんだな。こういうところに惚れて、こういうところが嫌になったんだよね。結婚の理由をきかれて「あなたとの間にはなかったものを感じた」というセリフはぐさっときた。サマーは愛がわからない人ではなかったんだね。冒頭の「これは男女の出会いの物語である」というナレーションが最後にきいてくるオチでよかった。
インサイド・ヘッド
絵があまり好みでなくて劇場ではみなかったけど、おもしろかった。ストーリー展開がおもしろいというよりは、設定が工夫されていたり情操教育に良いという感じ。笑えるシーンも多くてよかった。キャラクターはまさにアメリカ人のつくった映画だなと。でもヨロコビがカナシミを認めることができたシーンとかビンボンがゴミ捨て場に残ってヨロコビを助けてあげるシーンではまんまと泣かされた。原題は「inside out」で、つまり「裏返し」。ヨロコビとカナシミは裏返しという意味だというのをどこかでみたが、最後までみると納得。
Annie
2014年公開の新しいほう。悪役のキャラクター設定が過剰だったり、スタックさんやハニガンさんが急にいい人になったり、まあご都合主義の展開だけどファミリー向けの映画だしこんなもんだよなあ。曲はアレンジが相当現代風になっていて、もう少し原曲の感じを残してもよかったのでは?とも思ったけどまあこれはこれでいいものだとおもうし、曲の差し込み方は上手い。アニーたちが楽しそうにいろいろなことを体験しているのをみていると暖かい気持ちになるし、アニーが常に頭の良い子でみていて気分がいい。冒頭の原作のオマージュっぽいところがたくさんでてくるのもおもしろい。頭を空っぽにしてかわいい子供をながめたい気分のときにはちょうど良いです。
銀河英雄伝説10巻感想
銀河英雄伝説10巻を読み終えた。3月頃1巻を読み出したので、約半年をかけて読みきった。これくらい長いシリーズを読むのは初めてかもしれない。読み終えてしまうのがとても名残惜しく、余韻があとを引いている。
終わり方が見事だとおもった。シリーズの途中から、残されたイゼルローンの人々と帝国側の人間との関係はどうなるのか、善良な専制政治と腐敗した民主政治のどちらを選択すべきなのか、どの登場人物が最後まで生き残るのか・・・など納得できる落としどころはあるのか?収集はつくのか?と読みすすめていたが、本当にうまい終わり方だった。未来に希望が残された結末だったし、なによりミッターマイヤーが生き残って本当に良かった・・・オーベルシュタインの最期はもう少し描いてほしかった。最後の言葉が人間らしくて、やっぱりオーベルシュタインは憎めない。
途中、妊娠しているヒルダとつきそうアンネローゼの部屋にテロリストが侵入してくるシーンがあるが、そこでのアンネローゼの対応はぞくぞくした。さすがラインハルト様も頭が上がらない女性。ケスラーと女の子のエピソードも微笑ましくて良い。
ラインハルト様の病状悪化が伝えられた時のそれぞれの上級大将、元帥たちの反応がそれでこそという感じ。ロイエンタールはラインハルト様に対して複雑すぎる感情を抱いていたし、オーベルシュタインはあくまでゴールデンバウム王朝を打倒する存在としてラインハルト様の下に仕えていたとおもうが、ミッターマイヤーや上級大将たちはその圧倒的な才能だけに惹かれていたのではないとおもう。1人の人間としてたしかに部下たちに尊敬され、愛されているのが実感できて嬉しくなった。
シェーンコップの死に際してのユリアンとカリンのやりとりにおもわず泣いてしまった。アレク大公とフェリックスのシーンは心臓がぎゅっとなる。バトンが次の世代へと受け継がれていくシーンが好きだ。
シリーズ全体を通して何回かでてきた「歴史を逆行させてはならない」という言葉が心に残った。今日本が置かれている状況におそろしいほどにぴったりとはまる言葉だと思う。
読んだ本の感想を改めて文章にしようとおもうと難しい。書き残したことがたくさんあるとおもうがこの辺でやめておく。